アポリカ!通信 2025年10月:『Everyone has different BGM それぞれの背景音』

 
 
 
 ゲリラ豪雨混じりの秋雨が去り、暑さが和らいで過ごしやすくなった。季節の移り変わりとともに入試の成果が実り始めたので、この受験の季節が終わるまでは、ユウリカの方からコラムをお届けしたい。

 まずは英検。先週土曜日の英検無料補講イベントに、まだあどけない準1級の受験者が二人いた。

 一人は小6のAさん。中3受験生の姉は、今年の6月に準1級に合格して、いまは1級にチャレンジ中。さぁ次はAの番だよ、と軽々しく求めるのは、酷だ。思考力も知識も経験も、3才の差はとてつもなく大きい。それをA自身もおそらく感じているだろうに、健気に挑戦しているだけでも合格証を書いて与えたくなる。

 どの問題を教えて欲しいか聞いてみると、リーディングのパート3だと言う。一文一文、英語と日本語の両方で質問をしながら、丁寧に理解度を測っていく。意味が解らない言葉があれば、分解したり、他の言葉に噛み砕いたり、あれこれして工夫して、前に進む。内容をある程度理解したのを見計らって、解き方を教えたら3問全部正解できた。答えが合っていてもまだ表情がこわばっていたので、変な動きの誉め方をしたら満面の笑みが弾けた。

 もう一人は中2のBくん。倅と同じ学年で仲良くしてくれていたらしいので、久しぶりに教えるのを楽しみにしていた。彼もリーディングをやりたいと言うので解かせてみると、ほとんど正解してしまった。それでもさらに正確性を上げようと、マーキングしてみたら?と言うと、少しバツが悪そうにして、「…書き込めないんです」と答えた。どうして?と訊くと、「親に、後で妹が使うから書き込むな、と言われたんで」と。その物言いが、どこか哀愁を帯びていて、とても愛らしかった。でも、その背景には親の愛情というか、深~い考えがあるのかもね。ハンディキャップを乗り越えて成長して欲しいという親心なんじゃない?と言うと、「…いや、それはないと思います」と絶妙の間で否定した。(おそらく)妹への依怙贔屓という理不尽にもめげず、ユーモアで切り返す彼に心を打たれ、時間を忘れて教えてしまった。今回は二回目の挑戦だが、合格できた暁には、親御さんに一つお願いしてみようと思う。彼が(冗談で)言っていた『ご褒美にじゃがりこ20個』を買ってあげてください、と。

 締めは大学入試。推薦型選抜の校内選考が終わった。今年は国立の教育学部、そして私立は獣医学部、経済学部(国際経済学科)、外国語学部などの『第一志望』の合格が続いた。まだ校内選考に通過しただけなので、はっきりと「おめでとう」とも「Congratulations」とも言えないし、もちろん塾の『実績』にすることもできない。性格も環境も生き方も、すべてが全く違う個人を比較できないし、比較することに意味はない。

 
 共通して言えることは一つ、みんな『頑張った』ということだ。困難や誘惑に打ち勝とうと、もがいて耐え忍んだ。課外活動で青春を燃やしたい。バイトが辞められない。恋愛したい。やらなきゃ、と思っていても、スマホの誘惑にあっさりと負けてしまう(ほんの息抜きのはずが…)。AIの手軽さが、進路選択にも影響を与えている。相談もAI、当たり障りのない無難な志望理由書ならすぐに作ってもらえる。アイデンティティ&コミュニティ・クライシス。

 そんな受験生の中でも、最後まで自分を貫き通した人、Cさん。毎週、自習室の決まった席に座って、勉強と向き合ってきた。将来は英語の先生になりたい、と志望校を一度も変えず、勉強方法を改善して、前向きに取り組んできた。先週は、この大変な時期にまさか、、というアクシデントにも見舞われた。経過を見ていたが、次の週にはオンラインで私のレッスンに参加して、張りのある声を聞かせてくれた。意図的に受験英語で書いたメッセージの意図を、しっかりと理解してくれていた。楽な道の先にいる自分より、苦難を乗り越えた先の自分の方が、強くて豊かだと思うし、喜びのレベルが桁違いだと思う。

 「おめでとう」の代わりに、最近感動したインタビューをシェアします。英語とピアノが好きなCさんに敬意を表して。「英語はスポーツだ!」と叫ぶ塾もあるけど、音楽の方が近いと思いません?

 

(Uehara Hiromi ― 英語とピアノのバイリンガルで対話)

 

 
 
 
  

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