アポリカ!通信 2025年3月:『the Difference is What to Grow 何を育てるか』

 受験シーズンが、幕を閉じた。

 今年の受験生も、みんなよく頑張ったと思う。不安、後悔、心理的重圧などをひしひしと感じながらも、気丈に走りきった。チャレンジ精神、学部や校風への指向など、様々な事情により、全員を志望校に合格させることはできなかったが、ある程度の納得感を持ってもらえたと思う。高校入試が終わり、大学入試の繰上合格や後期発表を待ちながら、新年度の準備を進める。
 
 最近実施した新年度説明会では、保護者の皆様から様々な質問を頂いた。英語の学習方法、多読の効果、小学生への文法指導、国内受験、留学についてなど幅広かったが、こんな質問もあった。

 「色んなタイプの塾がたくさんあって、資料を取り寄せたり、話を聞きに行ったりしているんですけど、特に、こういう個人の(小規模という意味だと思われる)塾と、大手との違いがよく解りません。何が違うんですか?」

 確かに、どこでも『英語』は教えているし、他の科目も然りだ。何が違うのか、一般の方々には分かりにくいのかも知れない。説明会では様々な制約があり、その場では説明し尽くせないこともあるので、今月のコラムではこの問い対する回答をまとめてみようと思う。

 まず、個人の、つまり独立開業した塾講師は、教えることに対する、並々ならぬ自信と情熱を持っている(と思う)。開業する時は大体一人なので、その二つがないと始まらない(と思う…)。自信は経験から来るのは言うまでもない。

 だからついつい、教えすぎてしまうこともある。あまり営業時間に縛られない。早朝に補講や特訓に呼び出す人もいる。夜遅くまで、生徒の悩み相談に付き合う人もいる。授業以外の時間を削ってでも、どうにかして生徒を良い方向に導こうとする。何度も、話し合う。

 休日も教材を研究したり、知識を深めたり、世界情勢や歴史を探索してしまう。特定の生徒のことを思い出しながら、どんな教え方が彼/彼女に効果的か、思索する。

 自己資金と融資をかき集めて開業するので、事業に対する責任感が強い(当たり前か…)。当然ながら、最初のうちはスタッフを雇う余裕がないので、全て自分でやる。授業(+準備)だけでなく、運営業務も全てやる。備品を購入したり、領収書をまとめたり、掃除したり、、と、どんなにてきぱきとこなしても、朝から晩までかかる。

 資金力では勝てないので(教務力では負けないと思うが)、アイディアとアクションで勝負。自分(たち)でチラシの原稿を考えたり、デザイン会社や印刷業者に発注したり、寒い中走ってポスティングしたり(そのせいで風邪を引いたり)、駅や校門の前で配布したり、ネットで発信したりもすることもある。

 開業時は孤独だし、精神的にもきつい。でも、そのうち結果がついてきて、生徒や保護者から、たくさんの感謝や応援を頂ける。(会社に、ではなく)自分に対する評価をより直接的に受けるので、それがやりがいにも繋がる。教えることが人を育てることに重なることに気付くと、仕事が面白くなる(分からない人には分からないが)。後で社員が増えても、目の前で直接研修ができるので、大手よりも品質について安心できる(独りよがりの指導で、生徒を『実験台』してしまう講師も多い)。

 小規模の塾は少人数クラス制を採用することが多いから、目が行き届く。一人ひとりに時間を割いて、コミュニケーションを取って、お互いの理解を深められる。問題の解き方を見られる。学習方法を教えられる。質問に丁寧に答えられる。より適切な進路指導ができるし、雑談もできる。

 大手と違って、一教室の実績=塾の実績。『実績』の重みが全く違う。

 大手の合格実績は、色々な意味で歪んでいる。まず、合格実績=合格数 という恒等式の塾が多い。合格率ではない。各教室の、上位クラス(ほとんど不合格)のほんの一部の合格数を足し合わせて、「◯◯高校/大学合格◯◯名!」と大きな文字で宣伝する。次に、『合格基準』が緩い。直前講習を一度受けるだけで実績にカウントする。あれでは塾の実力や価値は測れない。『ブランド』という言葉は、実像を歪めるので、塾や予備校に使うべきではない。何となく合格が多そう、良さそう、という理由で塾や予備校を選ぶのではなく、生徒に合った塾を選ぶべきだ(その為には目利きが必要)。大手にはフランチャイズ(『ビジネスモデル』に関心を持つ事業者)も多いので、ご注意を、、と言っても看板には「フランチャイズ」と書いていないから、難しい。

 このように、好き勝手に基準を作れば合格実績はいくらでも操作できるので、大手=株式会社は、株価や株主への配当を上げるために、営業成績の方を重視する。社長や重役は、高級な社用車に乗っていたりする。部下を引き連れて、いい料亭の料理に舌鼓を打つ。その原資は、保護者の授業料だ。他の業界でいくら儲けていても全く気にならない。儲けることを批判したいのではない(それは偽善)。利益が生まれなければ生き残れないのは当たり前だが、教育業界だからこそ、儲け過ぎてはいけない。授業をしない塾で、違法賭博に耽って、異常な高評価の口コミ数をおかしいと思わない(元)社長は、明らかにおかしい。倫理はどこへ?

 小規模でも大規模でも、塾を経営する点では変わらない。でも、大手=株式会社は生徒の学力や幸福度を上げるより、教室の売上、(不要な)合格数を増やすことに腐心する傾向が強い。うちのような小規模なところは、生徒一人ひとりと、同じコミュニティの一員として付き合う。一人ひとりの物語を、大切に描くように心掛けている。

 さて、本稿の問いの答えになったかどうか。ともかく、うちは塾&予備校なので、『金儲けより人儲け』精神で、行けるところまで行こうと思う。生き残れたら、幸運だ。

  

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